FAX受注はもう限界?ShopifyではじめるBtoB受発注DXの全手順

いまだにFAXが主役?日本のBtoB受発注の現実
FAX受注が問題なのは「古い」からではありません。業務フローそのものに構造的な非効率が埋め込まれているからです。
手入力が避けられない。 FAXで届いた注文書は、そのままではシステムに取り込めません。担当者が1枚ずつ目で読み、基幹システムやExcelに手入力する工程が必ず発生します。この転記作業こそが、誤発注・数量違い・品番間違いの最大の発生源です。
注文の到着タイミングを制御できない。 FAXは24時間受信するため、深夜や早朝に大量の注文書が溜まります。担当者は出社してから初めて当日の注文量を把握することになり、人員配置や出荷スケジュールの事前調整ができません。
手書き文字の曖昧さが確認コストを生む。 手書きの注文書では、数字の「1」と「7」、カタカナの「ソ」と「ン」など、判読に迷うケースが日常的に発生します。そのたびに取引先に電話やFAXで確認を取る必要があり、1件の注文処理にかかる時間が膨らみます。
検索・追跡ができない。 紙のFAX注文書には検索機能がありません。「先月A社が注文した商品Bの数量」を調べるには、ファイルされた紙束を手でめくるしかなく、問い合わせ対応のたびに時間を浪費します。注文ステータスの追跡も、担当者の記憶やメモに依存することになります。
人手不足が深刻化する今、こうした構造的な問題を抱えたまま業務を続けることは経営リスクそのものです。
なぜ今、BtoB受発注のDXが必要なのか
コスト面の限界
FAX受注のコストが高いのは、1件の注文を処理するまでに複数の人的工程が連鎖するからです。
FAX注文が届いてから出荷指示に至るまでの典型的なフローを見てみましょう。「FAX受信 → 担当者が内容を読み取る → 基幹システムに手入力 → 入力内容を目視で照合 → 不明点があれば取引先に電話確認 → 回答を待って修正 → 出荷指示」。このうち、デジタル受注であれば「注文データ受信 → 出荷指示」まで自動化できる工程がほとんどです。
コスト差の本質は、1件あたりにかかる「人の手が動く時間」の違いです。用紙代やトナー代は些細な金額ですが、読み取り・入力・照合・確認電話にかかる労働時間を積み上げると、受注1件あたりの処理コストに大きな差が開きます。注文件数が多い企業ほど、この差は無視できなくなります。
人材確保の限界
受注入力は「慣れた人にしかできない」属人的な業務になりがちです。ベテラン担当者の退職や休職で業務が回らなくなるリスクは、中小企業ほど深刻です。
テレワーク対応の限界
コロナ禍で露呈したFAX業務の最大の弱点は、出社しなければ処理できないこと。BCP(事業継続計画)の観点からも、紙に依存した業務フローは見直しが急務です。
Shopify B2B機能でできること
2026年4月、ShopifyはB2B機能をBasic・Grow・Advancedの全有料プランに開放しました。これまでShopify Plus(月額約2,300ドル)でしか使えなかった機能が、月額数千円のプランでも利用可能になっています。
標準プランで使えるB2B機能
- 法人顧客管理(Companies): 取引先企業をCompanyとして登録し、複数のバイヤー(担当者)を紐づけ
- カスタムカタログ(最大3つ): 取引先ごとに異なる商品ラインナップと価格を設定
- 数量ルール: 最低注文数量、ケース単位の注文、ロット管理
- ボリュームディスカウント: 数量に応じた自動値引き
- 掛け払い対応: Net 15 / 30 / 60 / 90日の支払いサイト設定
- B2B専用チェックアウト: 一般消費者向けとは別の購入フロー
Shopify Plusで追加される機能

取引先が数十社規模であれば標準プランで十分対応可能です。数百社以上の取引先を抱え、企業ごとに細かい価格設定が必要な場合はShopify Plusの導入を検討すべきです。
業界別シナリオ:こう変わるBtoB受発注
シナリオ1:食品卸売業者の場合
Before(従来) 飲食店から毎晩届くFAX注文書を、翌朝5時出社の担当者が手入力。読みづらい手書き文字の解読に時間がかかり、誤発注が月に数十件発生。返品・再配送のコストが利益を圧迫。
After(Shopify B2B導入後) デジタル化すると、受発注の構造そのものが変わります。
- 24時間受注: 飲食店の仕込み後や営業終了後でも、スマートフォンからいつでも発注できる。卸側は翌朝の出社時に受注データが揃った状態から業務を始められる。
- 自動在庫チェック: 在庫切れの商品には発注時点で通知が出るため、「注文を受けてから欠品連絡」という取引先との摩擦がなくなる。
- 注文履歴と再注文: 過去の発注内容がデータとして残り、ワンタップで同じ内容を再注文できる。定番商品の発注作業が大幅に簡素化される。
- 受注データの自動連携: 手入力の工程がなくなり、受注データがそのまま基幹システムや出荷管理に流れる。入力ミスの発生余地がそもそもなくなる。
ポイントは、受注量が増えても処理にかかる人手が比例して増えない点です。FAX受注では注文が増えれば入力担当者も増やす必要がありましたが、デジタル受注では注文件数の増減に関わらず処理工数はほぼ一定です。
シナリオ2:アパレルメーカーの場合
Before(従来) 展示会後にFAXで届くオーダーシートを、営業事務が1件ずつExcelに転記。シーズンごとの価格改定では、全取引先に新価格表をFAX送信する作業が発生。
After(Shopify B2B導入後) 取引先バイヤーは専用ポータルにログインし、自社向けの卸価格でそのまま発注。展示会場ではタブレットで商品を見せながらその場でドラフトオーダーを作成。価格改定はカタログを更新するだけで全取引先に即時反映。
国内BtoB受発注システムとの比較
Shopify以外にも、日本市場には専門的なBtoB受発注システムが存在します。自社の状況に合わせた選定が重要です。

Shopifyが向いているケース: BtoCとBtoBを1つのプラットフォームで管理したい、将来的に海外卸も視野に入れている、豊富なアプリで機能を拡張したい企業。
国内専用システムが向いているケース: 掛け売り・締め請求など日本独自の商習慣にフル対応したい、FAX-OCR連携で段階的に移行したい企業。
日本のシステムとの連携
Shopify B2Bを日本で運用する際に重要なのが、物流と会計の連携です。
物流連携
- 配送マネージャー: ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便の発送伝票CSV出力、追跡番号の一括通知に対応
- プラスシッピング: 注文管理から送り状印刷、発送通知まで管理画面内で完結。月額基本料なし
- Ship&co: 国内大手配送会社に加え、海外発送の送り状発行にも対応
会計連携
- freee会計連携アプリ: Shopifyの注文データを勘定科目・取引先・部門を指定してfreeeに自動連携。記帳作業が不要に
- マネーフォワード連携: 商品(売上高)、送料、値引きを自動分類して連携
決済・掛け払い
Shopify標準のNet支払いサイト設定に加え、Paidyや掛け払い.comなどの日本向け後払いサービスとの連携も可能です。決済手段の選定と手数料構造についてはShopifyの決済手数料最適化ガイドも参考にしてください。
FAXからデジタルへの移行ロードマップ(6ヶ月計画)
Phase 1:準備(1ヶ月目)
- 現状の受発注フローを可視化する(1件の注文が届いてから出荷するまでの全工程を書き出す)
- 取引先をセグメント分けする(デジタルリテラシー高/中/低)
- Shopifyストアを開設し、B2B機能を有効化する
- 主要商品(売上上位20%)のカタログを作成する
Phase 2:パイロット導入(2〜3ヶ月目)
- デジタルリテラシーの高い取引先5〜10社を選定し、テスト運用を開始
- 取引先向けの操作マニュアル(スクリーンショット付き)を作成
- 電話・メールでのサポート体制を整備する
- フィードバックを収集し、UI・運用フローを改善
Phase 3:段階的拡大(4〜5ヶ月目)
- パイロットの成果データ(注文処理時間、ミス件数の変化)を社内共有
- 中程度のリテラシーの取引先に展開。必要に応じて訪問説明会を実施
- FAXとWeb注文の並行運用期間を設定する(いきなりFAXを止めない)
- 物流システム・会計ソフトとの連携を本格稼働
Phase 4:定着・最適化(6ヶ月目〜)
- Web注文比率の目標値(例:80%)を設定し、進捗を追跡
- FAX注文にはFAX-OCR(AI読み取り)を導入し、残存するアナログ注文も半自動化
- 蓄積された注文データを分析し、需要予測や在庫最適化に活用
- リピート注文のサブスクリプション化を検討
「うちの取引先はITに弱いから無理」への処方箋
BtoB受発注のデジタル化で最大の壁は、システムの導入ではなく「取引先の抵抗」です。長年FAXで発注してきた担当者に「明日からWebで注文してください」と言っても、すんなり受け入れてもらえるはずがありません。
抵抗を乗り越える5つのアプローチ
1. 強制しない、選択肢を増やす FAXを廃止するのではなく、「Webでも注文できるようになりました」という姿勢で始める。並行運用期間を十分に設ける。
2. 取引先のメリットを具体的に示す 「24時間いつでも注文可能」「過去の注文をワンタップで再注文」「注文履歴がいつでも確認できる」など、発注側にとっての便利さを前面に出す。
3. スマートフォン対応を徹底する PCを持たない小規模取引先でも、スマートフォンから簡単に発注できるUIを用意する。Shopifyのレスポンシブ対応はこの点で大きな強み。
4. 成功事例を横展開する パイロット導入した取引先の声を「導入して良かった」という形で他の取引先に共有する。同業者の事例は最も説得力がある。
5. 小さなインセンティブを設計する Web注文限定の割引(例:0.5%オフ)や、Web注文の翌日配送優先など、小さくても具体的なメリットを用意する。
導入後に起きる変化の典型パターン
BtoB受発注のデジタル化は、導入直後から劇的に効果が出るわけではありません。多くの企業で共通して見られる変化のパターンがあります。
初期(導入〜3ヶ月):抵抗と並行運用
導入直後は、取引先の発注担当者がWeb注文に慣れていないため、FAXとWebの並行運用期間になります。この時期は「前より手間が増えた」と感じやすく、社内からも不満が出がちです。ここで焦ってFAXを強制的に止めると、取引先との関係が悪化するリスクがあります。
中期(3〜6ヶ月):Web注文比率の逆転
一度Webでの発注に慣れた担当者は、再注文機能や注文履歴の便利さを実感し、自発的にFAXからWebに切り替えていきます。この時期に「Web注文のほうが楽だ」という声が取引先の間で広がり始めると、導入の勢いが加速します。
定着期(6ヶ月〜):業務構造の変化
Web注文が主流になると、受注処理に割いていた人員を出荷品質管理や取引先フォローに再配置できるようになります。注文データが蓄積されることで、季節変動の把握や需要予測も可能になり、単なる「FAXの置き換え」を超えた経営判断の基盤が生まれます。さらにShopify Flowを活用した自動化ワークフローを組み合わせれば、法人顧客の注文を自動で請求書払いフローに振り分けるなど、BtoB特有の業務を効率化できます。
FAXが残る取引先への対応:AI-OCRの活用
デジタル化を進めても、一定数のFAX注文は残ります。そこで有効なのがAI-OCRです。
AI-OCRは、FAXで届いた注文書の画像をAIが読み取り、商品名・数量・取引先情報を自動でデータ化する技術です。ただし、万能ではありません。
- 得意なケース: 自社が用意した定型フォーマットの注文書、活字で印刷された伝票
- 苦手なケース: 取引先が独自フォーマットで送ってくる手書きの注文書、メモ書きが混在する注文
- 導入時に必要な作業: 注文書のレイアウトごとにテンプレート(読み取り位置の定義)を設定する初期チューニングが必要
AI-OCRは「FAXをゼロにできない現実」への実務的な解決策です。完全なデジタル化への移行期間中に、手入力の負荷を下げるツールとして活用するのが現実的な位置づけです。
まとめ:始めるなら「今」しかない
2024年の経済産業省の調査では、BtoB-EC市場の規模は拡大を続けており、企業間取引のデジタル化率は43.1%に達しました。逆に言えば、まだ60%がアナログのまま残されています。
Shopify B2B機能が全プランに開放された2026年は、中小企業にとってBtoB受発注DXを始める絶好のタイミングです。月額数千円から始められ、取引先の数に応じて段階的にスケールアップできる柔軟性は、いきなり大規模なシステム投資ができない企業にとって大きなメリットです。
まずは主力商品のカタログを作り、ITに前向きな取引先5社からパイロット運用を始めてみてください。半年後には、FAX機の前で注文書を読み解いていた日々が信じられなくなるはずです。




